- 有料閲覧
- 文献概要
私の20年来診てきた患者さん.現在,父親が創立した会社の社長で,64歳の男性である.この方が外来通院の際,たびたび「先生だけずるいや!」とおっしゃる.それは,主治医の私がまだ元気で働いていることに対する羨ましい気持と,自分も少しでも肝機能が改善して健康を取り戻したいと願う気持の表れであろうと思われ,その気持を察するとちょっとすまないような思いになる.
この患者さんは,学生時代から酒・煙草・マージャン・ゴルフなど,遊びのほうではかなりの腕前であったらしい.37歳のとき虫垂炎の手術を他院で受けた際,初めて肝機能障害を指摘され,その後,私の外来で生検を受け慢性活動性肝炎と診断された.しかし,B型・C型肝炎は否定された.以後,肝庇護剤と強力ミノファーゲンCの注射を続けてきたが,GOT 150~300 KU, GPT200~700KU,γ-GTP 270~450IU/l, ALP839(JSCC単位)と高値を続け,上腹部エコーでは肝硬変の所見であった.しかし,本人はゴルフが大好きで,私の再三の注意にもかかわらず,年に数回はハワイやオーストラリアまで出かけてプレイしたり,また,時々の会合では酒量の度を過ごすこともしばしばであった.しかし,食道静脈瘤や腹水もなく,また自覚症状はまったくないため,会社の仕事もこなしてきた.しかし,昨年4月からALP 1539,γ-GTP 328IU/l, AFP 820ng/ml,コリンエステラーゼ136 U,血小板32,000/μl,上腹部エコーで肝右条内側上下区(S4)に直径4.2cm大の腫瘤を発見,肝細胞癌と診断され,5月下旬入院精査のうえ,TAE (trans-catheter arterial embolization)を受け,順調に経過,退院した.現在は,自宅で静養しながら仕事を続けている.
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.