コーヒーブレイク
寅次郎偲び草
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.534
発行日 1997年5月15日
Published Date 1997/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542903313
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一年前の本誌5月号で"静ひつな幸せを"と題して書いた中で,山田洋次監督が寅さんの真骨頂は木陰に入り草の上で"ああくたびれた"としみじみする気にさせる何かであると指摘したくだりを紹介した.その寅さんを何十年も演じ私たちを魅了した渥美清氏も間もない8月にひっそりと鬼籍に入ってしまった.
私も初上映以来毎年盆暮には,寅さんシリーズを必ず観ることにしていたトラキチの一人である.永い間,寅さんの故郷柴又を一度見たいと思いながらその機会がなかったが,昨年の暮れに同行の士を得て寅さん供養に出かけた.東京駅から数回乗り換え京成電鉄柴又駅の映画で見るプラットホームを降りると,草だんごの店などが並んでおり浅草の仲見世に似ているが小じんまりした感である.いわば私の故郷で見た馬市の祭りの露店を思わせる雰囲気であった.中心は寅さんが産ぶ湯を使ったという帝釈天で,その門前町といった風景である.帝釈天は笠智衆演ずる御前様の寺で,映画では鄙びていたが実際はなかなかの建造物で,重要文化財の価値があるという木彫りの外壁もあった.しかし私たちの故郷の鎮守様や菩提寺の雰囲気がやはり失われていない.
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