連載 待合室で僕は・9
言葉は世につれ……
大西 赤人
,
大浦 信行
pp.704-705
発行日 1997年10月25日
Published Date 1997/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901676
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世間において,“言葉は生き物だ”というような表現は,しばしば眼にするところである.即ち,我々が日常的に使う言葉―日本語は流動的な存在であり,決して絶対不変ではない,というぐらいの意味合いだろうか.たしかに,言葉は時の流れに応じて変化する.とりわけ,その時代,その時代の若い人々が中心となって略語,隠語,流行語の類を盛んに使い,結果,特に“良識”ある先行世代からは,まま「近頃の若者は日本語を乱す」と文句を付けられがちになる.
もっとも,不断の皆の「話し言葉」がそのまま記録として残っているのは,録音技術が定着した精々この100年ばかりのことだろう.明治時代,二葉亭四迷が「言文一致体」で小説を書きはじめた史実は有名だけれど,それでさえも,当時の「話し言葉」をどれほどありのままに写し取っているのか―つまり,書き手がどこまで編集や修飾の手を加えているのか―,今の我々には見当もつかない.まして,もっと以前の事となれば,実はほとんど推測の域である.
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