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はじめに
近年,非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)症の増加が報告されています.従来の抗酸菌症の中心は結核でした.ところが2016年のNamkoongら1)の報告により罹患率において肺NTM症は結核を上回っていることが明らかとなり,前回の2009年の調査の約2.6倍に増加したことが確認されました.起炎菌としては,Mycobacterium aviumおよびMycobacterium intracellulareを示す非結核性抗酸菌症(M. avium complex:MAC)が最も頻度が高く88.8%を占めており,続いてMycobacterium kansasiiが4.3%,Mycobacterium abscessusが3.3%認められています.菌の分離頻度には地域的な特徴がありM. intracellulareは西日本に多く,M. aviumは東日本に多いとされています.またM. kansasiiは近畿地方で,M. abscessusは九州・沖縄地方で高い傾向が認められています.細菌検査室において分離される抗酸菌の中心もNTMであるのが実際の感覚だと思われます.ただし,NTMの分離数が増加した現在においても,分離された抗酸菌が結核菌でないことを正しく確認することは感染対策上非常に重要です.
現時点で非結核性抗酸菌は190種類以上の菌種が登録されていますが,臨床で分離される抗酸菌の全体像として,表1にわが国の検査センターで分離され質量分析で同定されたNTM17,163株を集計した成績を示しました.そのなかで最も多く分離されたのはMACで全体の約64%(M. aviumが45.8%でM. intracellulareが17.7%)を占めています(実際はもっと多いと思われますが,多くのMACは核酸増幅法検査で同定されており,質量分析は全体を反映していないと思われます).続いてM. abscessusが9.3%およびM. kansasiiが4.7%でした.また分離されれば確定診断となる結核菌に対して,NTMにおいては分離された菌が必ずしも起炎菌とはならないため,感染症としての数字と分離株数で差が生じることがあります.特に肺NTM症においては起炎菌とするための条件が定められており,その条件として肺非結核性抗酸菌症診断基準が示されています(https://www.kekkaku.gr.jp/commit/ntm/200804sisin.pdf)2).またNTMは発育速度によって2つに区分され,コロニーが発育するまでに2〜4週間を要する遅発育性抗酸菌(slow growing Mycobacterium:SGM)と,1週以内に発育する迅速発育性抗酸菌(rapid growing Mycobacterium:RGM)に大別されます.
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