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はじめに
腎機能は加齢による腎血管構造の変化とともに低下し,わが国では65歳以上の男性の約30%,女性の約40%が慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者となる.わが国の慢性透析療法の現況(2021年末現在)によると,透析療法導入患者の平均年齢は71.09歳であり,年齢構成別で最も割合が高いのは,男性が70〜74歳,女性は80〜84歳であり,近年の高齢化は顕著である1).一方,老化の程度は1人1人異なり,暦年齢でのみ評価はできないことも当然である.高齢者は糖尿病や高血圧症,心血管疾患,脳血管疾患など種々の合併症を有することが多く,フレイルと総称される身体機能低下による日常生活動作(activities of daily living:ADL)低下,認知能力低下が重畳して,病態を複雑なものにしている.医療者依存という心理的な特徴は治療選択の意思決定の場面で支障となる.さらに高齢独居の問題も重なると,日常的な場面での介護の必要度が増え,通院支援などの社会的問題も生じる.したがって,治療選択の際には単純な医学的判断でなく,本人を取り巻く環境への社会的配慮も必要となる.
長寿化は医学的・倫理的に新たな課題を生じせしめた.末期腎不全(end-stage kidney disease:ESKD)の状態になれば,血液透析や腹膜透析,腎移植などの腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)への導入が必然であった.しかし,認知能力が著しく低下して自己管理が不可能な場合や,重篤な腎以外の合併症により生命の危険が高まっている状態など,RRT導入による益よりも害のほうが懸念される場面にしばしば遭遇するようになった.筆者らが日本透析医学会の「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」2)を2013年に報告した際には,RRT見合わせという議論を行うこと自体,社会に許容されるだろうかという懸念があったため,終末期患者に限定した提言とした.しかし,患者側の意思は尊重されるべきという意見が主流となり,厚生労働省からも人生会議としてのアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)が提唱されるようになった3).2022年には「高齢者腎不全患者のための保存的腎臓療法—concervative kidney management(CKM)の考え方と実践」4)が刊行され,RRTを開始しないという選択肢が患者の自己決定権を尊重するという面から,社会的に許容される状況となった.
本稿では従来のRRT療法の高齢者への適応ならびにCKM導入の際の留意点について概説する.
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