- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
自治医科大学は地域医療に従事する総合医を養成している.学生教育では,臨床実習(bed side learning:BSL)が4年生から始まり,約2年間にわたるカリキュラムで,期間が長い.卒業後に地域医療の第一線で活動する準備段階として,臨床実習を重視しているのである.臨床実習で指導を受けるのは,問診,身体所見,全体を“見る”ことの大切さである.全体を“見る”とは,患者や地域をみることはもちろんだが,診断に根拠をもつために患者の検体を目視することも含まれる.例えば,伝染性単核球症の血液像における異型リンパ球や,皮膚の鱗屑からKOH法による白癬菌を見る方法を実践する.地域医療の現場においても学生時代の教えが役立っている.
岩手県立千厩病院(以下,当院)の肺炎に罹患した80歳代後半の女性患者の話である.患者は,抗菌薬投与で元気になり,経口摂取量も安定した.来院時の胸部X線写真検査では,片側性の胸水を認めた.胸水ドレナージを行ったところ,ドレナージした胸水は滲出性胸水,培養結果は陰性,悪性細胞の検出もなく,炎症性胸水であったと考え,尿検査結果も考慮したうえで,今回の病態は肺炎の診断で適当であったと考えられた.今後は施設入所の日を待ちながら当院で過ごしていただく方針となった.患者には肺炎が治癒したので,治療が終了したことを告げた.ある日,回診前にこの患者の温度版を確認すると,それまで安定してしいたはずの体温が37℃台となっていた.退院や今後の方針が決定すると,それまで安定していた患者が発熱する場面に遭遇するのは私だけではないはずだ.この患者は高齢であり誤嚥のリスクもあることから,肺炎を再発していないか心配だ.これまでの経過が順調であったので,医学的根拠のない妄想をして発熱からの現実逃避をする.当院を離れたくないのか,それとも退院する日がうれしいために興奮して発熱したのだろうか.そもそも,37℃台の体温は発熱というのだろうか.しかし,上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)の著書によると,高齢者の腋窩温は36.2(35.7〜36.6)℃で若年成人よりも0.3℃低く,日内変動は0.4℃,成人の日内変動は1.0℃であることから,高齢者は1.0℃以上体温が高いと,発熱と判断したほうがよいということである1).わかっているのだが,やはり発熱している現実を直視し,患者のベッドサイドに足を運ぶ.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.