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2年余りにわたって本誌に連載をもたせていただいた.当初は1年間だけということで思い付くことを書き並べてみたのであるが,2年間余りということになると,著述業の人間でもない限りそうそう話題が続くものでもなく,読者の皆さまには筆者の息切れが伝わったことかと思う.今回で一応打ち止めとさせていただくべく,わが身の来し方を振り返りながら筆を執らせていただく.
私は大学院で日本住血吸虫症の研究を行って学位を得た.研究室は免疫学がテーマであったので,住血吸虫感染者の免疫応答の多様性に関する制御機構を解析するというのが研究課題であった.そのために,山梨県の日本住血吸虫症流行地の住民の皆さまに採血をお願いして,リンパ球の免疫応答を解析した.大学院在学中から流行地をレンタカーで回って住民のご自宅を訪問して採血に協力いただいていた。大学院の修了後に2年半の米国留学によるブランクを挟み,帰国後は国立予防衛生研究所(現在の国立感染症研究所)に異動したものの,同様のアプローチから研究を進めることができた.もちろん,若造の私を上司が温かく指導してくださったことに加えて,山梨県内の流行対策に直接あたっておられた山梨県衛生公害研究所の担当者の方々が親身になって協力をしてくださったからこそ実施できた研究であった.山梨で採血した後に東京・御茶ノ水の大学に戻り,直ちに実験に取りかかっても徹夜作業になり,始発電車で帰宅して仮眠した後に登校し,同じ日の終電で帰宅したことも今では若き日の思い出になっている.そんな状況を支えていただいた皆さまに謝意を述べても尽きることがないのだが,私にとって“忘れ得ぬ人たち”とは,若造研究者に貴重な血液を提供してくださった流行地住民の方々である.
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