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面妖なタイトルで恐縮であるが,決していかさまマージャンの指南ではない.病気のサインは意外なところにあるものだという話である.わが国のHIV新規感染者数は依然として年間1,000人台を維持していると報告されており,先進国のなかではかんばしい状況にはない.HIVを取り囲む医療環境は,新規の薬剤開発によって“死の病気”という恐怖感は薄れてきているのは事実であろうが,感染者本人はもとより,社会全体で正しい知識の普及と予防に取り組む必要があることには変わりはない.AIDSを発症した場合,死亡原因の多くは日和見感染症による.免疫抵抗性が低下した状況で,本来は病原性が強くない微生物による重篤な感染症が進行し,死亡に至る.寄生虫のうちで日和見感染症の病原体となるのは糞線虫以外は原虫であり,特にトキソプラズマ症,クリプトスポリジウム症,戦争イソスポーラ症はAIDS診断の指標疾患となっている.クリプトスポリジウム症と戦争イソスポーラ症は激しい消化器症状を呈するのに比べて,トキソプラズマ症は全身感染症であり,日和見感染症として発症した場合の症状は多彩である.
トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)という原虫は本来,ネコの消化管上皮細胞に寄生する.感染ネコのふん便中にオーシストが排出され,それをヒトが偶然に経口摂取して感染することもあるが,多くはオーシストを取り込んだ動物の肉にシストが形成されて,それを生か不完全加熱調理で食べて感染する.鳥や獣肉の刺し身が重要な感染源であると推定される.ヨーロッパなど食肉文化圏では感染陽性者数が驚くほど多い.ヒトの病気としては先天性トキソプラズマ症と後天性トキソプラズマ症があり,前者では主に網膜障害が問題となるが,後者ではほとんど症状を呈さない.問題は,いったん感染したトキソプラズマ原虫が生涯,私たちの体内にとどまることであり,厳密な意味では“完全治癒”は起こらないことである.健常人では感染後に有効な免疫が誘導されて,トキソプラズマ原虫は体内各所で囊子として潜伏することになる.したがって,トキソプラズマに対する抗体陽性者とは原虫保有者であることを意味する.日本人の場合,かつては抗体陽性者が“10歳代で10%,20歳代で20%,30歳代で30%”などといわれた.さらに“東高西低”といって,東日本のネコは西日本のネコより原虫保有率が高いとされたのであるが,最近では信頼に足る疫学調査の報告がない.先日の日本臨床寄生虫学会では,沖縄県のトキソプラズマ症の血清疫学データが報告されていたが,それによれば,中高年で感染率は依然として高いようである.
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