寄生虫屋が語るよもやま話・13
黒髪のあなた—Chagas病
太田 伸生
1
1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
pp.98-99
発行日 2017年1月15日
Published Date 2017/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542201088
- 有料閲覧
- 文献概要
南米の風土病にChagas(シャーガス)病という病気がある.報告者であるブラジル人研究者のCarlos Chagasにちなんでその病名がある.彼は恩師であるOswald Cruz先生に敬意を表して病原体にTrypanosoma cruziと命名したが,Cruz先生にとってChagasはお気に入りの弟子ではなかったようで,文句タラタラであったらしいが,世界的に有名な病原体に自分の名前を付けた弟子には草葉の陰から感謝して然るべきであろう.
さて,Chagas病はトリパノソーマ科原虫による感染症である.人に病気を起こすトリパノソーマには大きく2種類あり,アフリカ睡眠病を起こすT. brucei gambienseやT. b. rhodesienseなどと,Chagas病を起こすT. cruziである.睡眠病は治療しないと死亡する急性感染症であるが,Chagas病も数十年をかけて,まるで真綿で絞め殺すように人を死に追いやる病気であり,どちらも危険な病気である.Chagas病はサシガメという吸血昆虫が媒介する.サシガメは農村や森林地帯の木製家屋の壁の隙間などにおり,“田舎の病気”であるため,Cruz先生は“あいつはアマゾンの奥地で,ありもしない病気をみつけた”とこぼしていた.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.