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脂質の重要な役割として,生体膜構成成分,エネルギー源,シグナル伝達の三つが挙げられることは教科書通りである.生体膜は水や水溶性分子を通しにくい脂質二重層からなり,細胞膜は細胞と外界との境界を形づくる.この境界ができたことにより細胞が誕生したわけであり,脂質は生命の起源といってよい.また,脂質は単位重量当たりの栄養価が高く,人類の歴史において大切なエネルギー源であったが,現代社会では,その過剰摂取によるメタボリックシンドロームが大きな問題となっている.そして,脂質はシグナル伝達においても重要な役割を果たすが,これが本特集の中心である.シグナル伝達には細胞間と細胞内の両側面があるが,本特集では前者,つまり,いわゆる生理活性脂質を取り上げる.生体内の脂質からは様々なシグナル伝達物質が派生し,ペプチド性メディエーターなどとともに,生体における情報伝達に関与する.これらの作用は細胞表面上の特異的受容体を介して,多彩かつ厳密に制御された細胞応答を惹起するが,本特集においても,その最新知見が記述されている.なお,ステロイドホルモンも生体膜脂質であるコレステロールから作られ,やはり生理活性脂質といえるが,本特集では取り上げない.
生理活性脂質としては,アラキドン酸に由来するプロスタグランジン,ロイコトリエンなどのエイコサノイド性メディエーターが代表的であるが,最近では,スフィンゴシン-1-リン酸,リゾホスファチジン酸などのリゾリン脂質性メディエーターが急速に注目されだしてきている.これらの生理活性脂質の重要性は,そのそう薬への応用を見れば一目瞭然である.シクロオキシゲナーゼのアセチル化による阻害でプロスタグランジンの産生を抑制するアスピリンは,最も高頻度に使用されている抗血小板薬,抗炎症薬である.一方,スフィンゴシン-1-リン酸受容体作動薬であるフィンゴリモド(FTY720)は抗免疫作用を有し,神経難病の多発性硬化症の治療薬として臨床応用されだした.
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