今月の主題 脂質
巻頭言
臨床検査と脂質:これからの脂質研究への期待
横溝 岳彦
1
Takehiko YOKOMIZO
1
1九州大学大学院医学研究院医化学分野
pp.457-458
発行日 2007年5月15日
Published Date 2007/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101193
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臨床検査の項目に登場する「脂質」関連物質の数は極めて少ない.ルーチンの項目としては,中性脂肪(トリグリセリド),総コレステロール,HDL,LDL程度であろう.しかもHDL,LDLは脂質と蛋白質の複合体であり,分子量数十万の高分子である.一方,人体に存在する脂質の分子種は数万に上るものと想定されている.したがってわれわれはいまだに疾患における「脂質」の重要性を見いだせていないと考えられる.
トリグリセリドは十二指腸や小腸から吸収されたのち血中をめぐり,過剰な脂質は脂肪細胞に蓄積され,必要に応じて効率の良いエネルギー源として利用される.飢餓にさらされることの多かった時代に,われわれ人類が備えることを余儀なくされた「脂質を体内に蓄え,必要に応じて利用する」システムが,栄養過剰の現代にはいわゆる生活習慣病の最大の危険因子として機能しているのは皮肉なことである.同じく悪玉と考えられることの多いコレステロールは,多数のステロイドホルモンの材料としても,細胞膜を構成する成分としても極めて重要な,生命維持に必須の分子でもある.われわれがいまだに脂質の重要性を十分認識できていない最大の理由は,様々な疾患やホメオスタシスの維持における脂質の役割の理解が不十分なためであろう.
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