今月の主題 RNAの解析
巻頭言
RNA解析の新時代
塩見 春彦
1
Haruhiko SIOMI
1
1慶應義塾大学大学院医学研究科分子生物学
pp.829-830
発行日 2011年9月15日
Published Date 2011/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102718
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ヒトゲノムにおいて蛋白質をコードする遺伝子の数はおおよそ2万であり,この数は他の真核生物種と大差がない.また,これら蛋白質コード(coding)領域がヒトゲノム全体に占める割合は低く,たかだか2%程度である.つまり,ヒトゲノムの98%は蛋白質をコードしない領域,非コード(non-coding)領域である.しかも,この非コード領域の半分ほどが転移因子(トランスポゾン)とその残骸からなる反復配列によって占められている.
タイリングアレイや次世代型シークエンサーなどの新技術の開発とその急速な普及により,これら反復配列を含むヒトゲノムのほぼ全領域(~90%)が転写されていることが明らかとなった.これら転写産物の総体からなるトランスクリプトームには,複雑な選択的スプライシングにより生み出されたmRNA(coding RNA)のみならず,蛋白質をコードしない多種多様な非コードRNA(non-coding RNA)が含まれる.しかも,われわれの細胞は,同じ1つのゲノムから,様々なトランスクリプトームを形成する“エピジェネティック”な仕組みを有しており,この仕組みこそが1つの受精卵から様々な細胞種の違いを生み出す根幹である.トランスクリプトームの変化は細胞の性状の変化を導き,幹細胞の分化や細胞系譜の選択,さらにはiPS細胞産生,そして癌などの疾患の原因につながる.
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