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1.はじめに―insignificant cancerの背景
本誌の読者は泌尿器科専門医以外の方がほとんどと思われるが,前立腺癌の知識をお持ちでも,その中でinsignificant cancer,すなわち「臨床的意義のない癌」の詳細についてご存知の方は少ないと推察される.臨床的意義がない訳だから,当然のこととして症状で患者を苦しめることはなく,ましてや転移もない早期の段階で,治療対象として認識される癌でないことは容易に想像がつく.
2~3の事実を挙げると,ラテント癌として見つかる前立腺癌が多いことはよく知られている.また,膀胱癌で全摘術を施行した前立腺組織や,前立腺肥大症でTURP(transurethral resection of prostate:経尿道的前立腺切除術)を施行した切除切片から病理学的に癌(偶発癌)が証明されることはしばしば経験する.これらの事実は,言い換えれば,超高齢者にPSA(prostate specific antigen:前立腺特異抗原)が高いと言う理由で無理に生検を奨め,結果的に癌が出たからと言って,果たしてそのすべてに対する治療の必要性があるのかという疑問を投げかけている.
冒頭に述べた,治療対象とならない癌が存在するなら,癌に対して治療をする,しないは大きな問題であり,その鑑別が重要であることは言うまでもない.しかし,実際の日常診療では期待平均余命や患者の希望が医師の判断に大きく影響し,不必要な治療が少なからず施されている.このことは,治療により患者のQOL(quality of life)を大きく損なうことが想定されるし,逼迫する医療経済にさらに拍車を掛けることにもつながりかねないが,そもそもの原因はinsignificant cancerの定義づけが明確になされていないことに起因する.
そこで,以上の臨床的背景を踏まえて,本稿ではinsignificant cancerの考え方とその治療方針について概説する.
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