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1.はじめに
欧米風のライフスタイルの蔓延により,栄養摂取量の増加と消費の不足(運動不足)が起きている.この結果,過栄養状態が引き起こされると,活動に不要な余剰のエネルギーは,中性脂肪という形で脂肪細胞に蓄積される.脂肪細胞は,中性脂肪の蓄積度に応じて,アディポサイトカインの分泌量と種類を変化させる.メタボリックシンドロームの人に認められる中性脂肪の蓄積度が高い脂肪細胞からは,アディポネクチンなどのインスリン感受性を増加させるアディポサイトカインの分泌量が低下し,代わりに,インスリン抵抗性を誘導するTNFαなどのアディポサイトカインの分泌量が増加する.このため,過栄養状態では,インスリンの作用が低下する.
簡単にいうと,過栄養状態は脂肪細胞内の脂肪蓄積量を変化させ,脂肪細胞からのホルモン分泌動態を変え,インスリンの効きを悪化させる.このインスリン抵抗性状態がメタボリックシンドロームの根本病態である.
インスリンは骨格筋や脂肪細胞にブドウ糖を取り込ませる以外に,数多くの生理作用を有している.その結果,インスリン抵抗性状態では,中性脂肪の増加,HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下といった脂質異常症,高血圧,血糖値のわずかな増加が起こりやすくなる.さらに,メタボリックシンドロームで認められるアディポサイトカイン分泌状況自体が直接動脈硬化を促進させることが知られているため,メタボリックシンドロームでは,様々な作用を介して動脈硬化が進展し,心血管イベントの発症率が増加する.このメタボリックシンドロームに糖尿病が合併すれば,さらに,心血管疾患の発症頻度が高くなる.
メタボリックシンドロームではインスリンの効果が減弱している.ということは,血糖値が上昇し,糖尿病になりやすくなるわけであるが,メタボリックシンドロームの人すべてが糖尿病になるわけではない.なぜなら,健常な膵β細胞は,インスリン抵抗性が出現したときに,それを代償すべく,適切なタイミングで,多くのインスリンを分泌することができるからである.この代償機構にはインスリン抵抗性に対する膵β細胞容積増加作用も重要な役割を果たす.すなわち,インスリン抵抗性があるが糖尿病になっていない人では膵β細胞容積が増加している.一方,糖尿病の人ではインスリン抵抗性に対する代償作用が減弱し,インスリン抵抗性の存在にもかかわらず膵β細胞容積が低下している.これは膵β細胞代償不全の状態と考えられる.
以上から,糖尿病発症の鍵は,膵β細胞がインスリン抵抗性を代償することができるか否かにかかっている.膵β細胞がどのようにインスリン抵抗性を感知し,どのように代償するかの全容はいまだ明らかではないが,この全容が明らかになると,2型糖尿病の根本病態の解明を通じて,新規治療法の開拓が可能となる.そのような背景のなかで,最近,健常な膵β細胞機能にオートファジー機構が不可欠であることが明らかになってきた.本稿では,2型糖尿病の膵β細胞機能不全とオートファジー不全との関係に関して概説する.
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