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1.はじめに
唾液は,分泌型IgA(secretory IgA;sIgA),アミラーゼ,デフェンシン,ラクトフェリン,低分子ムチンなどを含む多くの抗菌物質を含んでいる.口腔では,口腔細菌がこれらの唾液中抗菌物質と戦いながら一定の常在細菌叢を形成している.近年,微生物の生き残り戦略としてバイオフィルムが注目され,多くの研究が行われるようになった.口腔においても口腔細菌が歯表面や口腔粘膜に付着して,増殖,凝集,菌体外多糖合成によりバイオフィルムの成熟が行われる(図1).成熟したバイオフィルムは,抗菌物質に対して抵抗性を有し,バイオフィルム内で菌体が殺されずに生きながらえるようにする.一方,抗菌物質である分泌型IgA,アミラーゼ,低分子ムチンは,歯表面のハイドロキシアパタイトに吸着し,獲得ペリクルを形成している.これらの抗菌物質は,Streptococcus sanguinis,Streptococcus mitis,Streptococcus gordoniiが結合するレセプターとしても機能する.よって,獲得ぺリクルとして形成されたこれらの物質にstreptococciが特異的に結合する.この現象によりstreptococciの初期付着が起こり,バイオフィルムが形成されるきっかけとなる.このような唾液成分とstreptococciの特異的な結合が起こることによって,streptococciを中心とする口腔細菌叢ができあがってくる.
streptococciの多くは,幼児期に母親などから伝播し,口腔に定着するようになる.この口腔へのstreptococciの定着により,口腔粘膜上での免疫応答や,血管に入り込んだ結果,全身免疫応答が生じ,抗streptococci抗体が誘導されるようになる.口腔には,粘膜上の免疫応答により感作を受けたリンパ球が成熟し抗原特異的なIgAを分泌,唾液腺を介してsIgAが放出されるようになる.一方,全身免疫応答では血清中に抗原特異的なIgGが分泌され,歯肉溝浸出液を介して口腔に放出されるようになる.このように唾液中には,口腔細菌に特異的に反応するIgAやIgGが存在していると考えられる.
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