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はじめに
炎症とは生体がなんらかの侵襲刺激を受けたことに対する免疫応答の結果,生ずるものである.このような反応を惹起する侵襲刺激としては感染症,熱傷,外傷,自己免疫疾患,アレルギー疾患など様々な機序のものが含まれ,生体への身体的ストレスの代表的なものである.
内分泌機構は生体の恒常性を保つ働きをしている.いわば外界と生体の各臓器との間のインターフェース,および生体内の各臓器間の調整役である.生体に身体的・精神的ストレスが加わると内分泌機構はそれに対する適応反応(adaptive response)として一連の反応を示す.内分泌機構のストレス応答には侵襲刺激の種類によらない普遍的な応答の要素と,それぞれの刺激に固有の応答の要素とがある.
ここでは炎症は身体的ストレスとして作用して内分泌系に影響を与えるとの立場に立ち,知見が比較的得られている重篤な身体的ストレスに対する内分泌系の普遍的な応答について主に述べたい.
ストレス応答に中心的な役割を果たす系は二つあり,一つは自律神経-副腎髄質系,もう一つは間脳下垂体副腎(hypothalamo-pituitary-adrenal;HPA)系である.副腎髄質系の産生するカテコラミンは“闘争か逃走か”(fight or flight)という状況に対して生体を備え,エネルギー源としての糖の動員,心拍数の増加や気管支の拡張,血流の再配分(骨格筋への血流を増加させ,皮膚や消化器への血流を抑える)を起こす.臨床の場でショックの際に循環維持のためにカテコラミンが用いられるのは周知のとおりである.
一方,HPA系が産生するコルチゾールは生体のストレスへの耐性を発現させる.生体はコルチゾールの欠乏を非ストレス時にはかなり耐えうるが,ストレス時には致命的であることからも,そのことは窺える.コルチゾールも血糖の動員を起こすほか,異化の亢進,免疫系の抑制をきたす.
HPA系をなすACTHを含む下垂体前葉ホルモンは全身の代謝,免疫能,性機能の調節など広範な機能を有しており,ストレス下でなんらかの影響を受けることは容易に理解される.近年,生命維持のための集中治療を要するような重篤な状態(critical illness)における間脳下垂体系の応答がかなり解明され,特に受傷後数時間から数日間の急性期と,7~10日目以降の慢性期で全く異なる反応をすることがわかってきた(図1)1~3).以下,本稿ではストレス時に劇的な変化をする視床下部下垂体系に絞り,概観した後に各論を述べる.最後に臨床検査の目的である臨床へのフィードバックに鑑み,このような病態を内分泌学的に治療するべきかどうかについての見解を紹介する.
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