今月の主題 結核
巻頭言
結核診療の過去・現在と未来
四元 秀毅
1
Hideki YOTSUMOTO
1
1国立病院機構東京病院
pp.1075-1076
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101713
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結核の現在は過去を反映し,その未来は現在に影響される.最近のわが国の結核罹患率は人口10万に対して20程度と先進諸国の中では高く,10以下の低まん延状態に到達するには越えなければならないいくつかの山がある.
わが国の結核患者を年齢層別にみると60歳代以上の占める割合が60%を超えていて最近の罹患率の低下傾向を鈍らせているが,これは高齢者施設などで結核がまん延しているというようなことによるものではない.結核の発病様式は感染に引き続いて数週間~2,3か月間の比較的短期間に起こる一次結核,年余の後に起こる二次結核に類型化される(このような結核の潜伏期の不定性は,結核菌の堅牢さと宿主であるヒトのこの菌に対する自然免疫・獲得免疫の抵抗力の不完全さのバランスによるものである).目前の患者がそのいずれであるかを明確に識別できるわけではないが,この考えに沿って割り切って言うと,若者の結核の多くは前者,高齢者結核の多くは後者と見ることができる.わが国で高齢結核患者が多いのは,かつての高まん延の負荷により,この層の既感染率が高いためで,慢性感染症としての結核の特徴に基づくものである.仮に感染者の二次結核の生涯発症率を数%とし60歳以上の既感染率を20%程度とすると,単純計算で100人のうち1名程度が発病することになる.これは過大評価としても,高齢層が全人口においてある程度の割合を占める間は,この層が発病予備軍として結核罹患率を下支えし続けるであろう.
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