今月の主題 エピジェネティクスと臨床検査
総論
胎生期環境と成人病素因の形成機序―成人病胎児期発症説
福岡 秀興
1
,
向井 伸二
2
Hideoki FUKUOKA
1
,
Shinji MUKAI
2
1早稲田大学胎生期エピジェネティクス制御研究所
2国立病院機構高知病院検査科
キーワード:
成人病胎児期発症説
,
低出生体重児
,
エピジェネティクス
,
胎生期低栄養環境
Keyword:
成人病胎児期発症説
,
低出生体重児
,
エピジェネティクス
,
胎生期低栄養環境
pp.637-641
発行日 2008年6月15日
Published Date 2008/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101618
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成人病の発症機序として,遺伝因子(特有の遺伝子配列)と環境因子の相互作用で生ずるものと従来は考えられてきた.しかしそれだけでは説明できないことが明らかとなってきており,新しい第三の説が注目されている.すなわち胎生期・乳児期の環境因子が遺伝子発現制御系を変化させ(エピジェネティクス),この時期に形成されたその制御系変化は出生後も変化せず(時に何世代にもわたって存続),この系に外界のマイナス環境因子が作用することにより成人病が形成されるという考え方である.すなわち出生体重の低下,子宮内の低栄養環境下で発育した胎児は,成人病素因をもって生まれることになる.つまり低体重児は,将来の成人病の発症リスクが高くなるという考え方が「成人病胎児期発症説」である.低出生体重児の頻度は11%を超えた地域もすでにあり,その上昇には歯止めがかからず増悪し続けており,日本は次世代の健康が先進工業国の中で最も危惧されている.妊婦の低栄養,喫煙,若年女性の痩せ願望,「小さく産んで大きく育てる」のが良いとする風潮などをいかに阻止するかなど,緊急に対応すべき状況にある.
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