特集 原爆症の10年
原爆と胎生期形成
林 一郎
1
,
岡本 直正
1
,
土山 秀夫
1
,
山辺 徹
1
1長崎大学医学部病理学教室
pp.923-931
発行日 1955年11月10日
Published Date 1955/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201264
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
放射線が一時的に強く,或は継続的に少しずつ照射されたときは,その放射線の本質(レ線,ガンマ線,アルフア線,ベータ線,ニウトロン)が異つていても,生物学的影響には差異がないと考えられている23)。実験的に動物の成体に放射線を照射して,次代或はその次の世代にたいする影響に関する観察においては,形成異常の発生或は個体数の減少などが報告されている16)17)。人類にたいして,かゝる影響を実験的に観察することは想像することすらできないが,宇宙線やそのほか天然に存在する微量の放射性物貧による不可抗力的な影響のほかに,現在における放射線領域の急速な発達と広汎な利用にともなつて或る程度まで人工的ともいうべき放射線照射の影響が人間にあらわれる可能性の増大が当然予測される。したがつて放射線による障害が八間の体質素因や遺伝にどのように影響するか否かについて検討することは全く無視さるべきではない。
不幸にして長崎市には1945年8月9日に原子爆弾が投ぜられたが,その人体に及ぼした或は及ぼしつゝある影響に関しては,医学的にいろいろの観点から観察され,検討されている23)。この原子爆弾が発生遺伝学的に如何なる影響を人類に及ぼすかということは將来にたいしての重要課題の一つである。
Copyright © 1955, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.