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1.はじめに
1906年に,アルツハイマー病患者の第一例がドイツの精神科医であるAlois Alzheimerによって報告されたが,いまだに根本的な治療法は確立していない.しかし,65歳以上の高齢者人口が2,500万人を超え超高齢社会に突入したわが国においては,アルツハイマー病の制圧は医学のみならず社会的にも大きな課題となっている.ここ20数年間にアルツハイマー病研究は,長足の進歩を遂げ,発症メカニズムの大きな枠組みはほぼ理解されたと考えられている.家族性アルツハイマー病を引き起こす原因遺伝子が複数特定され,それらの機能解析や関連病理現象に関する研究の結果,アルツハイマー病病態はアミロイドカスケードという脳内Aβ(amyloid β)の増加・凝集・沈着に起因する一連の病的カスケードとして理解されるに至っている.その結果,治療法の開発においても,Aβの産生,分解,除去,重合体形成やシナプス機能障害など,研究結果に基づいたアプローチが可能になり,より根本的な方法の開発が数多く試みられている.
一方,1993年にはHDL新生を通してコレステロール代謝を司るapolipoprotein E(ApoE)の対立遺伝子epsilon 4が遺伝的な危険因子であることが明らかになった.さらに,血中コレステロール高値がアルツハイマー病の発症と相関すること,血中のコレステロール値を降下させる薬剤であるスタチンにアルツハイマー病発症の予防効果があることが報告され,コレステロール代謝とアルツハイマー病との関連が注目されている.しかし,この両者の関係はいまだに不確定であり,現在でも議論の残る問題となっている.本稿では,アルツハイマー病の危険因子の観点からコレステロール代謝とアルツハイマー病との関連について概説するとともに,混乱した議論を整理したい.
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