特集 遺伝子検査―診断とリスクファクター
3.遺伝子診断の実際
コラム
発症前検査
鈴森 薫
1
1名古屋市立大学大学院医学研究科
pp.1487
発行日 2007年11月30日
Published Date 2007/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101457
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両親のいずれかが治療法や予防法のない神経変性疾患などに罹患しており,その疾患が常染色体優性遺伝で浸透率も高い遅発性(成人型)の遺伝病で,まだいかなる症状も発現していない時期に,その子どもあるいは他の血縁者が同様な遺伝子変異を保有しているかどうかを検査するのが発症前検査である.このような場合,陽性であるという結果は必ず近い将来に同疾患の発症を意味することになる.この検査は一見,健常な人を対象に行われるので一般的な医療の枠を超えることとなる.治療や予防ができないという情況は,陽性者にとって深刻な問題で慎重な対応が必要であり,厳重なフォローアップ体制の整備が先決である.具体的に「発症前検査」が依頼されたのは,20歳代の既婚女性で実父がハンチントン病をすでに発症しており,主治医から本疾患が常染色体優性遺伝形式をとり世代を経るにしたがって発症年齢が早くなる「表現促進」(anticipation)がみられるとの説明を受けていたが,是非に健常な子どもを持ちたいという希望で,本人に遺伝子異常があるかどうかを診断して欲しいということで来院した症例であった.ハンチントン病のような重症疾患では,希望者の依頼を安易に受け入れるのではなく,時間をかけた検査前の頻回のカウンセリングが必要である.このケースでは結果が思わしくなかった場合,自己の将来を考えさせ家族内に支援体制を整える必要があることを十分説明したところ検査を諦めた.もしも検査を受け,結果が正常であったとしても,本人は「生存者罪悪感」にさいなまれることがあり,十分にケアする必要がある.
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