- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
遺伝子診断の現状
これまで他項で述べられたように,病原微生物を同定するための多くの遺伝子診断法が開発され,その幾つかは既に臨床検査で日常業務の一部になってきている.特に,日常の検査で培養や顕微鏡検査が難しい病原体の診断に遺伝子診断が有効に使用されている.すなわち,ウイルスでは,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV),ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)やHIV(human immunodeficiency virus)などが,細菌では培養が比較的難しいかもしくは時間がかかる,クラミジア,レジオネラ,マイコプラズマ,ヘリコバクターピロリや結核菌等の遺伝子診断が導入されている.しかし,薬剤耐性菌の遺伝子診断の導入に関しては,必ずしも優先順位は高いとは言えない.このなかで,薬剤耐性結核菌の遺伝子診断に関してはその有効性がすでに広く認識されており,リファンピシン耐性遺伝子診断法(rpoB)が臨床検査試薬として実用化され,ピラジナミド耐性遺伝子診断法(pncA)も開発されて1),研究試薬として販売されている.その一方で,他の多くの薬剤耐性菌の遺伝子診断法の臨床応用は進んでいない.ただし,ゲノム型解析は別で,パルスフィールドゲル電気泳動法などによる疫学調査は,薬剤耐性菌の感染対策のうえで大変有効な情報を提供している.検査機関では本技術を積極的に導入すべきである.
分子生物学の技術は,感染症の診断,治療および感染症対策における分子疫学調査においてますます重要な手法となり,従来の微生物検査法を大きく変えるであろうことは間違いない.薬剤耐性菌の診断の遺伝子診断においても,検査の簡便性,再現性,特異性,感度といった技術上の問題点を克服することが重要であるが,これらの技術にかかるコストや患者の治療にどのように有益であるのかなど議論の余地があろう.ダイレクトシークエンス法2)やDNAチップのような多くの情報が搭載でき,さらにコストのかからないような新たな診断技術の導入が必須であろう.本項では,ペニシリン耐性肺炎球菌,多剤耐性緑膿菌を中心にESBLsおよびメタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌の遺伝子診断,および緑膿菌の分子疫学に関して記載する.しかし,これらの遺伝子診断はいずれも研究レベルや疫学調査出の使用にとどまっている.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.