- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1. はじめに
われわれはこれまで妊娠中の母体に抗原刺激を与えたり感染侵襲を受けた場合の児における能動的免疫反応について調べてきた.これまで出生期における新生児の感染免疫は主に母体由来の移行抗体によると報告されていて,母子免疫は児にとって利点として考えられてきた.しかし,われわれは出生後,児の能動的免疫反応の展開を調べていくうちに,母親は児の特異的免疫反応に干渉し,児の反応を抑制することを見出した.この抑制は抗原特異的であり児の1/6生涯の期間持続する.また,抑制の機構を調べていくにつれ,母親の免疫担当細胞そのものが児に移行し児の免疫反応に干渉していると判定されている.この事実は,これまで自己免疫と考えられてきた病態を母子免疫の方向から可能性を探る必要性を示唆するものである.
父親由来の遺伝子をもつ胎児がなぜ免疫学的に拒絶されることなく子宮内で発育できるのかについては大きな謎である1,2).生物学的に子宮外では発育不可能な胎児にとって母体の役割は大切である.胎児は母子間の組織適合抗原が相同の場合のほうが非相同の場合よりも大きく発育する3,4).このことから,胎児に対する母体の障害性はMHCとminor HCを異にする場合のみ引き起こされるものといえる.児の免疫系の発達は母体の免疫系により影響される.本報では遺伝学的背景が同じである母子間において母体が胎児に与える影響について述べる.母子間における免疫的相互作用は相同であっても非相同であってもみられるが,その質と量には差がある5).われわれは同種間の影響を除いた後天的免疫反応について着目した.同種であることによる非相同に基づく免疫反応の影響を避けるため,同系のSPFマウスを用いた6,7).
われわれの実験系において,母体由来の抗体(末梢血血清中の抗体)は子宮および/または母乳を介して胎児に移行させた6).抗体価を測定するこれまでの方法を用いたのではその抗体が母体由来か胎児由来かを知るうえで適切ではない6).そこで,われわれはJerneによって開発されたゲル中での局所溶血特異的抗体の産出活性をみる方法を試みた8).この方法においてT細胞依存性抗原としてのはたらきおよび実験室にて取扱いの容易な綿羊赤血球(SRBC)を用いた.卵白アルブミンもまたT細胞依存性抗原であるが,可溶性のものではアジュバントなしの場合容易に免疫寛容を惹起する9).さらに細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)および重合化されたフラジェリンをT細胞非依存性抗原として用いた.
われわれはすでにマウスにおいて母体に対するSRBCによる抗原刺激が児の特異的免疫反応を抑制することを報告してきた.しかし,児の免疫反応は母体の免疫によって増強されるとの報告もある10).これを証明するためにアジュバントあり/なしの可溶性蛋白抗原である卵白アルブミン(OVA)を妊娠マウスに投与した7).まず,アジュバントとともに可溶性蛋白抗原である卵白アルブミン(OVA)投与母体群の免疫反応を調べ,次に児の免疫反応を二群間で比較した.さらに母体に投与される抗原量の違いにより受動免疫にどのような違いをもたらすかも検討した.得られた結果よりSRBCまたはアジュバントあり/なしのOVAにて刺激した場合の児における免疫抑制の機序について考察した.本稿では,このような観点から,われわれの実験を紹介し討議した(図1).
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.