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はじめに
1954年,Merrillによる一卵生双生児間腎移植の成功は,移植された腎臓が長期にわたって機能し,生体の健康を保つことができるということを証明するとともに,移植成績が遺伝的類似性に左右され遺伝的非類似性(組織適合の違い)による拒絶反応(免疫反応)の抑制が成功の鍵を握ることを示した.以後,臓器移植の普及と発展は免疫抑制剤開発に依存しているといっても過言ではない.
最初の免疫抑制の試みは,Murryらにより全身X線照射が行われたが,感染症併発のためすべて失敗に終わった.
1960年代に入ると,抗癌剤として開発された6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine;6-MP)に免疫抑制作用があり,ヒト移植への適応の可能性が示されたが,副作用の強いことから臨床応用までには至らなかった.しかし,6-MPのイミダゾール(imidazole)誘導体アザチオプリン(AZA)に,6-MPと同様の免疫抑制作用を持ちながら副作用の少ないことが明らかになり,1962年Murry,Merrillらのグループにより腎移植への臨床応用が行われた.以後20年間臓器移植における中心的な免疫抑制剤として移植普及に大きな役割を果たした.その後,StarzlやMurryらにより別々にAZAとステロイド剤の併用により合併症の軽減と著明な生着延長が報告され,以後この薬剤の組み合わせが標準的な免疫抑制療法となった.また,1960年後半に開発された抗リンパ球血清も急性拒絶反応の抑制に貢献した.しかし,AZAとステロイド剤の組み合わせではステロイド剤高投与量のため,重症の副作用が発生し,AZAに変わる免疫抑制剤の開発が望まれた.
1976年,Borelら1)はノルウェー南部の土壌から分離した微生物の代謝産物であるシクロスポリンA(ciclosporinA;CsA)に骨髄抑制作用がなく,強力な免疫抑制作用のあることを報告した.1978年にCalneら2)により腎移植に応用され,さらにStarzlら3)は,CsAと少量のステロイド剤を使用することにより致命的な合併症の少ない優れた免疫抑制療法のできることを明らかにした.これより腎移植ばかりでなく肝臓移植,心臓移植,膵臓移植も可能となった.さらに,CsAよりもはるかに強力なタクロリムス(tacrolimus)が発見され,1989年Starzlら4)により,その抑制力はCsAでは抑えきれない肝移植の進行中の拒絶反応をも抑制することが明らかにされた.タクロリムスの出現により,CsAでは困難であった小腸移植も可能となった.
免疫学の進歩とともに,T細胞上のCD3に対するモノクローナル抗体ムロモナブ(muromonab;OKT-3)5),活性化T細胞のCD25のみに反応するキメラ抗体バシリキシマブ(basiliximab),ヒト型抗体ダクリズマブ(daclizumab)6,7)も開発され,合併症の少ない使いやすい抗体療法が行われつつある.
最近では副刺激経路,接着分子に対する化合物や抗体も開発され,免疫寛容導入の可能性も検討されている.
AZAはプリン核酸合成の新生経路(de novo pathway),再利用経路(salvage pathway)の両経路を抑制するがリンパ球は前者のみを使用しており,この経路のみを抑制し,かなりリンパ球選択的に分裂増殖を抑制するミゾリビン(mizoribine;MZ)8)や,ミコフェノール酸モフェティル(mycophenolate mofetil;MMF)9)が開発されている.特にMMFの場合,CsAとの併用により拒絶反応の発症率が少なく合併症の少ない免疫抑制療法が確立している.主な免疫抑制剤の一覧表(表1),また作用点(図1)を示した.
わが国における最近の腎移植における主な免疫抑制プロトコルは,低容量のカルシニューリン・インヒビター(CsA/タクロリムス,MMF,バシリキシマム,低容量のステロイド剤の4剤併用療法である.本文ではこれら薬剤の薬理作用とPK/PD(Pharmacokinetics/pharmacodynamics)について記述する.
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