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1.今なぜヒトパピローマウイルス遺伝子型タイピングか
子宮頸癌の罹患のリスクが若年層に上昇し,それが性行為によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染の機会の増加に起因することが認識され,現在効果的子宮がん検診の対象が30歳以上から20歳以上に引き下げられて細胞診が推進されている.前癌病変から子宮頸癌への進展は遅く,早期発見による早期治療が必須であることは周知の事実で,精度管理の高い施設における細胞診の実施が厚生労働省のがん検診実施のための指針にも指摘されている.これには適正な精度保証を有する細胞診の標準化とHPV遺伝子型タイピング(genotyping)が重要な課題となってきた.具体的には細胞診標準化として適切な採取器具を用いて細胞を十分に収集し,固定保存できる液状細胞診(Liquid-based Cytology; LBC)が導入され,HPV genotypingにより高リスク型の感染か否かを診断し前駆病変の対策を講じることが効果的と考えられている.
2.細胞診におけるコイロサイトーシスとベセスダシステム
かつてHPV感染は外性器の尖圭コンジローマを意味し簡単な電気焼灼や凍結切除術で治療されていたが,子宮頸部に病変の頻度が高いflat condylomaの存在と細胞診による診断の重要性を強調し始めたのはMeisels, Fortinら1)(1976)で,超微形態的にウイルス粒子を立証したのはDellaTorreら2)(1978)である.Meiselsによれば軽度異形成low-grade squamous intraepithelial lesion(LSIL),CIN1として判定される症例の70%はHPV感染にかかわるもので,組織再生や炎症による増殖性変化が残りを占めるという.ベセスダシステム(Bethesda System)では再生や炎症による反応性病変をreactive changeとしてまとめ,また起因不明な核肥大などをASCUS(atypical squamous cells of undetermined significance)と命名し,これをLSILと区分しているが実際にはその判別にはgrey zoneのものが少なくない.日母分類IIIaも人により判定の変動が大きく広いスペクトラムを有している.べセスダシステムアトラス3)の図説に偽コイロサイトーシス(psudokoilocytosis)が記載され,核周囲明庭の境界が不明瞭な所見を反応性変化群に入れて辺縁が厚く境界明瞭な所見のものをHPVによるLSILとしているが遺伝子レベルの根拠を示して記載してはいない(図1~3).今やASCUS, LSILにわたる細胞病理学的変化に分子生物学的根拠を確認することが不可欠であり,genotypingによるリスク因子を知ることは治療目的から極めて重要な課題といえよう.
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