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はじめに
脳磁図あるいは脳磁場(magnetoencephalography;MEG)は脳磁図(場)計測装置(脳磁計と略称される)を用いて記録される脳内の磁場活動である.近年,急激に普及し,現在は世界で100台近くの大型脳磁計が稼働している.特徴的なことは欧州,特にドイツに多いこと(15台近く),日本でも30台以上が稼働しており世界一であることである.この数年間に中国,韓国,台湾にも導入された.また,導入を予定あるいは申請している施設は数多く,神経科学,臨床神経生理学の分野では最も注目を集めている機器の1つであることは間違いない.もう1つの顕著な特徴は,北米では現在十数台しか稼働していないことであり,機能的磁気共鳴画像(functional MRI;fMRI)に圧倒されている点である.これらについては「現状と問題点」の項で詳述したい.
MEGの紹介をするには,一般的に広く普及している脳波(electroencephalography;EEG)と比較して説明するの最も良い方法であろう.大脳皮質錐体細胞樹状突起の先端部から基部に向かって興奮性シナプス後電位,すなわち細胞内電流が流れる.電流が流れるとその周囲には必ず磁場が生じる.したがって,EEG(電場)とMEG(磁場)は同一の現象を異なる方法で見るものと言ってもよいかもしれない.しかし,両者の決定的な違いは空間分解能である.脳と頭皮の間には脳脊髄液,頭蓋骨,皮膚という導電率が大きく異なる3つの層がある.したがって脳で発生した電場は大きな影響を受け,頭皮上に置いたEEG電極から正確な脳の活動部位を知ることは困難である.しかしMEGの場合,磁場は導電率の影響を全く受けないため,記録条件が良好ならばmm単位で活動部位を正確に知ることができる.これがMEGの最大の長所である.また,MEGはEEGと同様にミリ秒単位の高い時間分解能を有する.
MEGの最大の問題点は,脳から発生する磁場が地磁気あるいは周囲磁気(電車,エレベーターなどにより発生する)などの1万分~1億分の1程度の極めて微小なものである点である.そのため,高性能の磁気シールドルーム,超伝導量子干渉素子(SQUIDと略)などのハイテクノロジーが必要となる.もう1点は,その価格である.建物の改造費や周辺機器(高性能コンピューターなど)を含めると,機種や環境にもよるが設置には2~5億円は必要である.また,超伝導状態を維持するための液体ヘリウム代金と機器(コンピューターを含む)の保守管理料などの維持費が最低でも年間1,000万円以上は必要である.
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