- 有料閲覧
- 文献概要
第53回日本輸血学会総会は,2005年5月26日(木)~28日(土)の3日間,慈恵医科大学輸血部星順隆教授を会長として,東京ディズニーランドのある東京ベイホテル東急で開催された.テーマは「原点に戻って考える輸血医療・細胞治療(ドナーからレシピエントへの橋渡し)」で,ドナーや患者の安全性に重点を置いた色合いとなった.また,今回の学会では新しい試みとして,ディズニーリゾートでの開催のほか,インターネットのホームページに「サイバーコンベンション」というテーマ展示,バーチャル展示会,ネットフォーラムという3つの部門の仮想会議場を作り,学会に参加できなくても雰囲気を味わいながら議論ができる場を設けたことなどが挙げられる.
輸血学会の役割は変貌しつつあり,かつての輸血検査や業務だけでなく,2003年7月から施行された「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」いわゆる血液新法を受けて,適正輸血の推進と血液製剤の国内自給に向けて,大所高所に立っていくつかの変革を迫られている.そのひとつは,特に血漿製剤の適正使用がある.1998年にCochrane groupがBritish Medical Journalに,熱傷などに対する急性期のアルブミン使用がかえって死亡率を増加させるという衝撃的な論文を発表して以来,世界中で論議が起こっている.これに対して,第1日目の皮切りは,輸血学会幹事で中心的役割を担う東大輸血部高橋孝喜教授,虎の門病院輸血部松崎道男先生を座長に,シドニー大学輸血部教授のDr Finferが,最新のNew England Journal of Medicineに掲載された彼らのSAFE(Saline vs Albumine fluid evaluation)studyの結果を紹介した.これはCochrane reportに対する追試で,double blindの多施設共同比較試験であるが,結論としては,CCUにおける外傷,敗血症,急性呼吸促拍症候群患者への低濃度アルブミン製剤使用は,全体としては,死亡率を増加させないものの生存率も向上させていないというものであった.この後引き続き,「輸血用血液,分画製剤の適正使用」のシンポジウムに移り,学会幹事の都立駒込病院輸血・細胞治療科比留間潔先生と慶應義塾大学輸血・細胞療法部半田誠助教授に加えて,肝臓外科出身の旭川医大輸血部紀野修一先生,岡山大学麻酔科森田潔先生を交えて,時間を超過した討論が行われた.わが国のアルブミン使用量は諸外国と比較して最も多いものの国内自給率は約半分にすぎず,平成20(2008)年までに血液製剤自給100%を提唱する厚生労働省規準の達成は極めて困難と予想される.シンポジウムでは,臨床現場と輸血部との温度差が浮き彫りになり興味深かった.輸血製剤の安全性に関しては,この他「輸血感染症」「輸血医療および造血細胞治療のリスク」「免疫性輸血副作用について」「安全な輸血体制の普及」などのシンポジウムや教育講演が行われた.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.