特集 病院医療—21世紀への遺産
写真でみる 20世紀の医療技術の進歩と病院
上林 茂暢
1
1龍谷大学社会学部
pp.1036-1045
発行日 2000年12月1日
Published Date 2000/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541903144
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よるべなき人たちの収容から治療の場への一歩—20世紀初頭の病院
産業革命で世界の工場としてスタートを切ったイギリスは,その前夜,都市化に伴い貧困層が増大するなかで,中世キリスト教の慈善活動の伝統を受けvoluntary hospital建設運動が盛んになった.ウェストミンスター病院(1719年),ガイ病院(1721年)などが相次いで登場,18世紀後半から19世紀にかけてこの動きは加速され,地方都市にも及んだ.19世紀前半には医学校を設置し,教育,研究に取り組み教育病院として発展するところも増えてきた.
しかし蛭を用いての瀉血が治療法として姿を消したのが19世紀末だったことからもわかるように1),その内容は思弁的な中世医学の制約を脱していなかった.木製ベッドには南京虫が群がり,素人や入院患者のなかで比較的元気な者に看護がゆだねられていた.パリの伝統あるHôtel Dieu,ロンドンの新興ガイ病院をはじめ,この時期のヨーロッパの病院は大同小異だったといわれる2,3).家族の病気は主婦が世話をし,ゆとりのある階層は往診を頼み,外科的な処置すら在宅で行われた.献身的な看護がなされた施設もあったにせよ,病院はよるべなき人たちの最後の手段というイメージが強かった.
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