特集 改めて癒しの環境を問う
癒しの音環境デザイン
上原 和夫
1
1大阪芸術大学音楽学科
pp.840-842
発行日 1999年9月1日
Published Date 1999/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541902797
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音は人類の歴史の中で時代や地域を問わず人々の暮らしと密接にかかわり,時として超自然的な存在として魔力をも感じさせ,同時に精神的な安らぎをもたらしてきた.古代社会における治療的儀式には,呪術者の存在とともに音は欠かすことのできないものであったようだ.太鼓を打ち鳴らすことによって痛みを忘れさせるといったペインクリニックのような行為も行われていたと考えられる.このように音は元来癒しとしての役割を持ち,人々の健康とかかわる重要な位置を占めていたことが想像できる.
われわれ現代人にとって癒しを感じさせる音は,やはり大自然の様々な営みがもたらす渓流の音や鳥のさえずりなどの自然音であり,また伝統的な文化が育んできた寺の梵鐘などの精神性を持つ響きなどであろう.しかしながら今日では,われわれを取り巻く音の環境は機械文明全盛の中で大きく変化し,もはや自然音や伝統的な音を明瞭に聴き取ることは極めて困難な状況にある.とりわけ無数の人工音に取り囲まれた大都市の音環境は,人々に精神的にも生理的にも過度の負担を強いており,音の存在が重大なストレス要因にもなっている.
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