特集 「病院死」を考える
閉じ込められた死—文化人類学から見た病院での死
内堀 基光
1
1一橋大学社会学部文化人類学
pp.1078-1081
発行日 1994年12月1日
Published Date 1994/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541901386
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
人類と死
ヒトとヒト以外の動物の境界に死という現象がある.というと,やや謎めいて聞こえるかもしれません.ですが,ここで言いたいことはきわめて明瞭なことです.すなわち,人間の死という現象はまさしく特権的な意味での社会的・文化的現象であって,この特殊性こそが人間の存在をその他の動物から質的に分かつごく少ない特性の1っだということであります.これについてまず考えてみましょう.
ここ二三十年間になされた霊長類学のめざましい進歩によって,ヒトと高等類人猿のあいだの越えがたいとされてきた垣根は,その多くが取り払われてしまいました.チンパンジーがごく簡単なものながら道具を制作し使用することはすでによく知られているところですし,また彼らが,実際に人間的な音声を発するわけではないにしても,用意された記号や象徴を利用して言語的コミュニケーションをおこなう能力を獲得できることも明らかになってきました.また霊長類の社会について言えば,われわれがそれを語るとき,もっぱら擬人的な表現を用いて語っても何らおかしくはないほどに人間的なものです.
Copyright © 1994, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.