- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
■はじめに
医療従事者が抱えるストレスは職業性ストレスであり,そのストレスが積み重なることが身体的・心理的ウェルビーイングに影響し,ひいてはそれが患者安全にも影響をもたらす.職業上のストレスに対して,個人の取り組みのみならず,組織的なシステムアプローチが重要である1).全米医学アカデミー(National Academy of Medicine)は2019年にこのように警鐘を鳴らした.すでに1990年代〜2000年代には,臨床スタッフがストレスを抱えることによる問題に関する研究はさかんに報告されており,データが蓄積されている.上述の警鐘から遡ること20年,同アカデミー(当時の米国医学研究所;IOM)は医療におけるエラーは個人を責めるのではなくシステム全体を改善する必要があるとして「To Err Is Human:人は誰でも間違える」2)を発信している.
筆者は,国内の産婦人科での心理臨床や,米国系経営コンサルティングファームでの病院経営改革の仕事を経て,ハーバード大学/マサチューセッツ総合病院(MGH)産婦人科の医療の質管理ディレクターとして,質安全の仕組みづくりに従事し,クオリティアシュアランスの一環として,ストレスフルな部門で働く医療従事者へのマインドフルネスの導入支援や,患者にとっても医療者にとっても思いやりのある安全な組織文化醸成の推進に関わってきた.
わが国の医療の質はOECD全体でもトップに位置し,かつアクセスの良さも卓越している.個人的に感じるのは,日本の医療機関で働くスタッフの責任感,細やかな配慮や誠実さ,思いやりの深さである.しかしながら,医療機関で働く一人一人の努力のみでは継続しがたく,新型コロナウイルス禍で露呈したものの,メンタルヘルスの課題は,他国同様に日本においても長く続いてきたことだと考える.
帰国後,筆者は医療の質・安全に資するものとしてのマインドフルネスやセルフ・コンパッションを,多職種にわたる医療従事者や,臨床研修指導医,後期研修医,看護管理者,病院長,経営管理層などに提供している.
病院スタッフの心の健やかさには,複合的な要因が絡むことを念頭に置きつつも,本稿では,心の在り方,とりわけ私たちの心に内的な資源(リソース),資産として育むことが可能なマインドフルネスやセルフ・コンパッションを紹介する.
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.