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■はじめに
わが国は今後,生産年齢人口の減少が加速する.こうしたなかで,多様で効率的な働き方を通じ労働生産性を高めることは,社会保障制度の持続可能性を確保する観点からも重要である.とりわけ病院経営において医師をはじめ医療スタッフの働き方改革は非常に重要な意味をもつ.
2017年3月28日,働き方改革実現会議は,労働者の時間外労働の上限規制を導入することなどを内容とする「働き方改革実行計画」を決定した.この計画に基づき労働基準法が改正され,一般の労働者に対する時間外労働の上限は,原則,月45時間,年360時間とされ,臨時的な特別な事情がある場合であっても,年720時間,月100時間(休日労働を含む.ただし45時間を超える月は6か月まで),複数月平均80時間(休日労働を含む)という上限が設けられた.しかし,医師については,「働き方改革実行計画」では,「医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要である」ことから,「改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用することとし,医療界の参加の下で検討の場を設け,質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し,2年後を目途に規制の具体的な在り方,労働時間の短縮策等について検討し,結論を得る」こととされた.
このため,2017年8月,厚生労働省に「医師の働き方改革に関する検討会」(座長:岩村正彦)が設置され,2019年3月28日に報告書が取りまとめられた注1.そして,さらに法律改正を要する事項について検討するため,2019年7月に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(座長:遠藤久夫)が設けられ,2020年12月22日に「中間とりまとめ」が公表された.これを受け,2021年2月に医療法等改正法案(略称)が国会に提出され,同年5月21日に可決成立し28日に公布されるとともに,2022年1月19日には関係法令も公布された.これらの改正のうち医師の時間外労働に関する規定の適用は,一般の労働者に対する労働基準法等の改正法の施行日(2019年4月1日)の5年後に当たる2024年4月1日とされている.従って,施行まで残された時間は1年数か月しかない.
本稿では,医師の働き方改革の時間外労働規制の要点を押さえた上で,宿日直許可の取扱いや医師の働き方改革のインパクトおよび進め方について考察する.
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