- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
■はじめに
国が医療を提供するために財源を用意したり規制を行ったりしている理由は,医療は市場で自由放任にできない特殊なサービスであると認識されているからである.これを市場の失敗という.市場の失敗となる要因としては,第一に医療は生命や健康にかかわるものであるから,平等に提供されなければならないという平等性の問題がある.第二に,医療は患者に医療機関が提供するが,この両者では情報が対等でないという,情報の非対称性の問題がある.患者自身が受けた診療の評価や価格を判断するのは困難であるからである.第三に,疾病や障害の発生は不確実であり,個人でリスクを負うことはできないという不確実性の問題がある.第四に,疾病で死亡したり障害が残ったりすることは,個人の問題のみならず社会的な生産性の低下などにもつながるといった,外部性の問題があるからである.
「混合診療」とは,同一の疾病の一連の治療において,公的医療保険で認められている診療(保険診療)と,認められていない診療(保険外診療)を受けることであるが,原則禁止されており,混合診療を受けた場合には保険診療および保険外診療の全額を支払うことになる1).なお,この混合診療を例外として認めているのが保険外併用療養費制度である1).これは,保険診療の部分は保険を適用し,保険外の診療(特別なサービスなど)の部分は患者の自己負担とするという仕組みである.
わが国では,保険外併用療養費制度の拡大や混合診療の解禁について,今世紀に入って総合規制改革会議などで議論されてきたが2),この問題は,平等性,情報の非対称性,不確実性,外部性の面からも考慮されるべきであると筆者は考えている.とりわけ,混合診療が解禁されれば,高所得者は受けられる医療は広がるが,低所得者は受けられる医療は制限されていく可能性があり,医療を受ける平等性が脅かされる可能性がある.
これらの間接的な根拠として,患者自己負担が大きくなれば受診控えが起こり,所得が少ないほど自己負担増の影響は大きくなり,現実に所得に関する健康格差が存在することを挙げることができる.本稿では,これらのテーマに関し,筆者らが行ってきた研究を紹介したい.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.