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■はじめに
・保険証1枚あれば,誰でも,いつでも,どこでも医療機関にかかれる
・「(病院や病床数が)多い・(1病院・1病床あたりの医師や看護師の密度が)薄い・(平均在院日数が)長い」
・民間病院が多い
・中小病院が多い
・医療の提供主体は「民」が中心だが,それを賄う財政は「公」が担う
・病院と診療所の役割が明確でない
日本の医療の特徴を述べると,以上のようなことが言えるのではないかと思う.
医療の歴史について書かれた本などを読むと,民間主体の医療提供体制ができあがった発端には,1887年の勅令があるようだ.財政逼迫を受け,府・県立医学校への地方税の支出が禁止され,併設されていた病院の多くが廃止あるいは民間に払い下げられた.これを機に一般向けの病院は民間が主体となって整備され,自由開業医制のもと,開業医が診療所や病院を開設するユニークな医療提供体制ができあがっていったという.
国民皆保険制度を持たない米国医療を描いた映画「SiCKO(シッコ)」などを見ると,戦後の混乱から間もない1961年に,国民皆保険体制を築いた日本の医療の先見性や実行力の偉大さを感じる.世界に冠たる日本の長寿化も,国民皆保険を基軸とする医療の体制抜きには成し得なかった.しかしながら,時代とともに医療提供体制を巡る課題が噴出し,改革の必要性が叫ばれてきた.
2008年に報告書をまとめた政府の「社会保障国民会議」の資料(図1)を見ると,現在指摘されているのとほぼ同じような課題が列挙されている.「病床数が多く,病床機能が未分化など,非効率な提供体制がある」として,あるべき医療・介護サービスの姿を描くとともに,改革の必要性を提言している.
改革の必要性は2013年の「社会保障制度改革国民会議」でも指摘され,2015年からは都道府県に,2025年の医療需要と病床の必要量を推計する「地域医療構想」の策定が求められた.2019年には,厚生労働省(厚労省)が公立・公的病院の<再編統合再検証要請424リスト>を実名で公表し,医療界,自治体を中心に大きな反響を呼んだのは記憶に新しい.
社会保障報道を続けてきた立場から言うと,これまで述べた出来事はその都度,報道してきたが,<医療提供体制>は一般紙では玄人筋の話題と受け止められがちで,政治・経済の主要ニュースに比べて大きく扱われにくいという悩みがあった.そんな状況を吹き飛ばしたのが新型コロナウイルスの感染拡大だ.コロナ禍による「医療逼迫」を受け,提供体制に関する国民の関心は一挙に高まった.コロナを巡る報道を通じて,冒頭に掲げた日本の医療の特徴や,公立・公的・民間病院のあり方を初めて知った,という国民も少なくないのではと思われる.
もっとも,各メディアによる報道のスタンスは様々で,その内容に疑問を抱かれた医療関係者もおられるかもしれない.そうだとしても,多くの国民が「自分事」として医療体制を捉え始めた今は,貴重なチャンスといえる.こうした認識のもと,メディアの立場から「ポストコロナを見据えた公立・公的病院と民間病院の役割分担」について考えたことをつづってみたい.
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