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これからのわが国の医療介護行政は「地域包括ケア」体制の実現を最重要課題として展開されていく.地域包括ケアとは住民の日常生活圏域(おおむね30分で行ける圏域)で医療・介護・予防・生活支援・住のサービスが総合的かつ包括的に受けられる体制である.少子高齢化そして人口が減少する社会でこれを実現する作業は,地域のリノベーションを要求する.高齢化という現実を考えれば,このリノベーションは医療・介護の視点を持つことが不可欠であり,それゆえに地域包括ケア体制の実現の可否がその地域の今後30年の在り方に大きく影響すると言ってよいだろう.平成27(2015)年度から策定が始まっている地域医療構想もこの大きな流れの中で動いているということを医療関係者は理解する必要がある.
地域包括ケア体制の構築の基本的な枠組みを作ってきたのが厚生労働省老健局長の私的勉強会である「地域包括ケア研究会(座長:田中滋・慶應義塾大学名誉教授)」である.そして,行政側でこのビジョン策定に長く,そして深く関わってきたのが本書の著者である宮島俊彦・前厚生労働省老健局長(現内閣官房社会保障改革担当室長)である.本書では地域包括ケアの考え方について構想策定の責任者としての立場から包括的に論じられており,そしてその内容はまさに今,実現に移されつつあるものである.特に,第2章の一体改革の構図の内容は重要である.例えば,医療計画についてはその役割を「供給目標の設定と連携体制の確保」とした上で,それを実現するための都道府県のデータ分析能力向上の必要性や医療計画に記載された内容を実現するための「医療・介護・住宅整備ファンド」の設立が提言されている.これはまさに現在,地域医療介護総合確保基金として具体化されているものである.
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