特集 経済学からみたこれからの医療
巻頭言
井伊 雅子
1
1一橋大学国際・公共政策大学院
pp.397
発行日 2015年6月1日
Published Date 2015/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209864
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医療の在り方を経済学で考えるというと,新自由主義的な“お金ですべての物事を捉える自由競争至上の考え方”と思われがちだ.しかし,経済学で競争とは「公正または平等なルールのもとで限られた資源を適切に配分するためのメカニズム」であり,経済学のゴールは,皆で協力して,限られた資源を効率的に利用することである.つまり市場だけが手段ではなく制度設計が大事なのである.よりよい制度を実現するために,人々の倫理的な行動や利他的な行動だけに頼るのは限界がある.人間の利他性を支える社会のしくみをどのようにして作るのか,どのような制度設計をするべきか,そうした視点からも経済学の研究は進められている.
生活習慣病や慢性疾病が医療費の上位を占めており,喫煙や飲酒を控えること,バランスの取れた食事や運動などの重要性が言われている.しかし,生活習慣を変えることは難しく,私たちは予防は重要とわかっていても先延ばしにする傾向がある.人間行動の特徴に関する行動経済学の分析と,それに基づいた予防医療政策なども最近の経済学の重要なトピックである.
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