人
病院設計に豊富な主張をもつ名古屋大学工学部建築学科 柳澤 忠教授
榊原 欣作
1
1名古屋大学医学部附属病院
pp.112
発行日 1988年2月1日
Published Date 1988/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209223
- 有料閲覧
- 文献概要
どうした風の吹きまわしか,私は昔から病院の設計などについて相談を受けることが多かった.元来,ものを作ることが嫌いではないから,時折は持参された設計図だけでは納得がゆかず,設計の担当者達に会ったりもしたが,多くの場合,私は彼らを余り信用できなかった.彼らは自分が書いた設計図に妙にこだわり,他人の疑問には「素人のくせに」といわんばかりに真面目に答えようとせず,わずかな自分の経験だけを頼りに押しつけがましく独断的で,しかもその論拠に乏しい.いよいよ窮すれば,異口同音に「予算が限られているから仕方がない」という科白しか返ってこないからである.
そんな人達が多い中で,柳澤教授だけは全く異色の設計家である.その顔から微笑が消えることはないが,果てしなく続く議論にも真摯に耳を傾け,些細とさえ思われる問題にも徹底的な調査を繰り返す.彼の主張は緻密な論理に明確に裏付けられて説得力に満ち,専門家としての助言が積み重ねられてゆく過程の中でいつとはなく設計図が完成してしまう.才能はもちろんであるが,それだけではない.不思議な人徳を併せ備えた人でもある.
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.