ケーススタディ 共に考える病院運営の盲点
痴呆状態にある孤老の金銭管理
pp.236-237
発行日 1985年3月1日
Published Date 1985/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541208542
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〔事例〕
元警察官のMさん(男性・77歳)は結婚歴がなく,借間での一人暮らしを長年してきていたが,近年になって,歩行障害・失禁を伴う痴呆状態が現れてきた.家主の嫁が,食事・洗濯等の介護をしてきたが,それも限界にきて,市役所の老人福祉課へ相談し,当院へ入院することになった.諸検査の結果では特に異常は認められないものの,頻尿・排尿困難・視力減退・両上下肢振戦・歩行障害等の症状があり,退院後の独居は無理と判断され,社会的条件での入院の必要が認められた.
その後1か月ほどは,医療スタッフや同室の患者との摩擦も特にない状態が続いていたが,ある夜突然無断外出で病院の近くの交番に駆け込み,「皆が私の悪口を言う.預金通帳が盗まれた.私は殺される.」と訴え,病院には帰りたくないと保護を願い出るという事件が起きた.翌日,多少興奮がおさまったところでMSWが本人と面接したところ,借間に置いてきた預金通帳,印鑑,年金証書等が盗まれているのではないかという不安が最も強く,この事件の原因になっているように思われたので,早速MSWが付き添って部屋を見に行った.自分の目で室内をあらため安心した様子であった.「重要なものは病院に持って帰り,常時身につけておくように」と勧めたが拒否し,何度も施錠を確かめ帰院した.
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