随想
医療に生きる喜び
岡山 清
1
1九州記念病院
pp.439
発行日 1982年5月1日
Published Date 1982/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207746
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先日テレビの寸劇で,我々の商売は,お金を払ってもらえば「有り難うございます.」とお礼を述べるが,お医者にはお金を払って「有り難うございます.」とこちらからお礼を言う.こんな有り難い商売はない.自分も医者になっていればよかった,というくだりがあった.年齢(よわい)六十を過ぎてみてやっと自分はドクターになってよかったと泌泌(しみじみ)思うこのごろである.毎日だれからか,「お世話になりました.ほんとに助かりました.」あるいは「あのときはほんとうにお世話様になりまして,おかげ様で元気にしております.」とお礼を言われて,はてだれだったかなと,すっかり顔を忘れていることがしばしばであるが,こんなにまで感謝されて自分は「幸せだなあ」と感じ,ドクターであることの幸せに感謝するのは年のせいであろうか.その幸せだと感ずる心がますます病に悩める人を一人でも多く助けてあげたいと駑馬(どば)に鞭打って勉強に励むわけであるが,硬化した頭には新しい知識がなかなか入らないし,入っても直ぐ右から左へと抜けて行ってしまう.しかし勘だけは,若いときに比べると物すごく鋭くなり,理学的診断と検査の裏付けが,よく一致するようになった.したがって他医から紹介された患者でも,ほとんど予後がよくて,お返しすることができるようになった.
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