院外活動日誌
夜の電話
川村 佐和子
1
1都立府中病院医療相談室
pp.152
発行日 1978年2月1日
Published Date 1978/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206460
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11月3日(祝日)
午後8時15分,夕食の片づけ中に電話が鳴った.「夕方から,熱は37℃台なのに,のどがゼロゼロいって苦しそうなの」Aさんの奥さんからだった.数日間の体温の変化,食事や意識などをたずねて,常時と差異のないことを確めたが,家庭医のB先生に相談することを勧めた.こんな夜遅く,先生をたずねていいかしらと奥さんはためらったが,深夜に戸を叩くことを考えれば今の方がよいと再度勧めた.1時間後に電話をする.「B先生に薬を頂いてのんで寝入りました」とのこと,ほっとする.Aさんは40歳,10年来神経難病で療養中だ.近頃は寝たきり,流動食,集尿器使用,全介助である.Aさんの援助をはじめて5年経過するうちに,奥さんは困難に当面するといつでも電話をかけてくるようになった.今回のように夫の身体異常に関する問題,奥さん自身の悩み,生活の困難,時には,「今日のお父さんは一日声が出なかったのよ,一日の家事がすんで坐ってみたら,このままお父さん駄目になってしまうのではないかと思い始めて,いても立ってもいられなくなって電話したのよ.本当にこのまま死んじゃうのなら,二人一緒に死にたい」と涙声になることもあった.
夜電話をかけてくるのはAさんの妻だけではない.また私達も,昼間は勤めている家族に直接話しかけたいと思うと夜の電話連絡に頼ることになる.
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