脳卒中の診療体制
脳卒中早期の移送入院はなぜ必要か—美原脳研における経験から
美原 博
1
1脳血管研究所美原記念病院
pp.74-78
発行日 1976年5月1日
Published Date 1976/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205909
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脳卒中の研究と診療内容は,この十年間に格段の進歩をとげた
戦前私の学生時代,脳卒中の治療といえば放っておいて,何もしないことが最善の方法だとさえ,教えられていた.恩師西野忠次郎先生は,当時,慶大内科の主任教授であり,脳卒中臨床の大家として令名をはせていた.その名講義には,ふだんさぼっている学生さえも出てきて,教室が満員の盛況であった.一言一句聞きもらすまいと,書き取ったノートは今でも保存してあり,懐しい思い出である.私の父が卒中発作で倒れたときも,遠く群馬まで往診をお願いした.そのベッドサイドの診察態度などは,今でも脳裡にはっきりと焼き付いている.
そのころの治療は,「絶対安静」「いらぬことはするな.若い医者は,すぐ注射などしたがるが,ほおっておくにかぎる」というのが金科玉条であった.当時は,それより他の方法がなかったのである.血圧降下剤すらなかった.血圧を下げる意味で,盛んに瀉血をしていた時代である.嘔吐や,けいれんをとめるのにルミナールの静注や抱水クロラールの浣腸があったぐらいである.輸液には,リンゲルを両腿に皮下注射して,熱いタオルでもんだりしていた.
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