精神医療の課題
ホステル化しつつある精神病院
遠山 哲夫
1
1昭和大学付属鳥山病院
pp.52-60
発行日 1975年8月1日
Published Date 1975/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205686
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はじめに
わが国の精神医療界は,社会との接触を深めるに従い,社会構造・経済構造と直接的に結合しはじめたようである.その結果,精神医学の臨床の一端を担当する精神病院は,善きにつけ,悪しきにつけ,社会の動きに鋭敏に反応する社会集団のひとつとして,再形成されつつある.昭和30年代から本格的に改革しはじめた精神病院は,治療法の導入と開発,技術水準の向上,集団としての体質改善等次々に実施してきたのであるが,最近,その速度は鈍る傾向がみられる.一方,社会・経済の構造的変化は加速度的に速くなりつつあるので,両者の相対的な格差はますます大きくなってきたようである.もちろん,社会のすべてが急速に変化しているわけではないので,精神病院のある側面は社会とともに変容するのであるが,ある側面では再び社会から取り残される怖れがある.
個々の現象をみると,社会との接触が密になり,疾患の回復速度も著しく速くなっているが,病院全体としては,社会との格差およびズレがわれわれの意思に反し拡大しているといえよう.たとえば,新入院患者の意識・態度の変容は著しいものがあり,それに対応できる治療関係者は一部に過ぎない.もちろん,治療関係者の入替わりもあるが,その持ち込むものは一見新しいものであり,革新的あるいは斬新的に見えるが,その本質は旧態依然たるものか,それ以下のことも少なくない.
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