特集 医療事故と病院
医療行為における「水準」と「基準」—医療過誤論の観点から
松倉 豊治
1
1兵庫医科大学法医学
pp.35-39
発行日 1975年8月1日
Published Date 1975/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205681
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まえがき
最近医療過誤訴訟の判決文中に,「現代の医学水準」とか「医学の常識」とかいう言葉がよく出てくる.もっとも,こうした言葉は昔の事例の中にもすでに見出されるのであるが,最近それがいささか多く目につく.たぶんそれは,何らかの医療上の過失を法律家側で指摘しようとする際に,その診断・治療行為がその当時の医学水準に達していないとか,医学界の定説ないし常識に反しているといった総括表現をすることが,判示として説得的な適切さがあるということからであろう.
思うに,そのこと自体は一応おかしくはないのであるが,問題は,その水準とか定説ないし常識とかが何を基準にして把握されているのか,という点にある,そのへんが法律家側でかなりアイマイであるフシがあり,また鑑定ないし証言等によってその見解を述べる立場にある医学側においても,実は必ずしも明確ではないようである.そしてそのために,法律家側の判断根拠にも一種の不安定さがあり,医師側にもその漠然さからくる動揺があるように,私には見受けられる.
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