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—河野 博臣 著—「死の臨床—死にゆく人々への援助」
池見 酉次郎
1
1九州大学
pp.87
発行日 1974年11月1日
Published Date 1974/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205490
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医師に課せられた実存的使命を洞察
シカゴ大学で,死の病にかかっている患者の心理を,深く研究した心理学者として知られている,キュブラー・ロスの「死ぬ瞬間」という著書に,‘医学は,人道的で尊敬される学問でありつづけることができるのか,それとも,人間の苦しみを和らげるよりも,生命を延ばすことに役立つ,新しい非人間的な科学であるべきか.われわれはこう自問しなければならない’としるされている.
これまでの医療では,死は治療者の敗北であると見なし,死の否定と生命の延長にばかり,重点がおかれていたようである.このような医療のあり方の中では,もはや回復の見込みのたたない患者に対したとき,医師は,言いようのない,心理的なフラストレーションと葛藤を味わうものである.このような苦い体験をくり返すうちに,医師たちは,死の問題に対して,しだいに無神経になるか,その問題にかかわることを逃避するといった,心理的な防衛を身につけることが多い.このようにして,人間にとって最も深刻な問題に対して,これに一番身近な治療者が,一番痴呆状態になるといった,何ともわりきれぬ結果を招きやすい.
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