特集 火災対策
精神病院の特殊性
岩佐 金次郎
1
1井之頭病院
pp.66-69
発行日 1973年10月1日
Published Date 1973/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205132
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はじめに
病院の塀に接した民家から火事がおこった.12月の西北風にのって,火の粉がとんできたので,深夜の病室に,退避命令が急報され,病棟の扉は開放された.500名余りの男女患者は,火元とは反対側の,構内広場へ集められた.たいした混乱はなく,集結患者数は,当夜の在院者数と一致していて,当直者をまず安心させた.吹き上げるあかい焔が黒い煙に変わっていく頃には,近所に住んでいる職員たちも応援にかけつけてきて,警戒体制は十分となった.30分たたないうちに,鎮火となり,患者たちは,病室へ戻った.人員点呼をすると,火元の民家に最も近い女子病棟の患者がひとりいない.火事が消えて,静かになっていく近辺とは逆に,多くの職員が騒々しく捜しはじめた.入院者調査票に記入されている住所は,病院から3kmばかりの近距離である.自転車でそこを訪れた職員は‘たったいま,帰ってきました’というねまき姿の兄夫婦の側にその患者を見いだして,息をついた.
ところが,その翌夜10時ころ,同じ患者のいる女子病棟(木造)の天井からキナ臭い煙が洩れている,という.たしかに,病棟の浴場をはじめとして,数か所でそのような臭いがする.近い病室の天井板を突きあげて開くと,臭いはすこしだが強くなっていて,薄褐色の煙が天井板にそって広がりながら立ちこめていく.‘天井裏で漏電発火!’この判断で,院内出火を知らせる3吹鳴サイレンがひびき渡った.
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