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円形病院の得失—武藏野赤十宇病院内伝染病棟について
坂本 鹿名夫
1
1建築総合計画研究所
pp.13-20
発行日 1956年7月1日
Published Date 1956/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201118
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1.円形建築の創案
円形の建物は昔から珍らしいものではない。現にエスキモーの氷の家や蒙古のパオは古来のものであり,極めて少ない材料で合理的に造られているのに感心させられる。近来コンクリート構造の発達に倶い再び建物は必ずしも四角に造る許りが定石でない事に着目され始めた。筆者は幼時よりガスタンク或は樽又は桶等の構造に特に興味を持つたし,大学の卒業計画は円形の格納庫の上に廻転飛行台を持つた高架飛行場と云つたもので建築学会誌昭和12年6月号に採録されている。戦後土地及び物資の窮乏のため益々合理的建築の要望強く,はしなくも箸者創案による円形校舎,円形病院等の案がジヤーナリズムの波に乗りはじめて世の注目を浴びる様になつた,
而もその機会に世の通念を打破つて円形建築は却て安価に建設出来ると云う事が始めて世間の人々の知る処となつた。この事実は,専門家の間でも未だに納得の行かぬのか,現に徒らに私の形態のみを摸倣して設計した人々の間では円形必ずしも安くない等と広言して憚からぬ人さえある位である。しかし一般人士は既に円形経済説を信用する様になり建築家に対し一応は円形プランの試作を要求するという傾向さえ生じ,自由な形態に修練しない設計家を面喰わせていると云う事実を生むに到つた。
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