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社会の成熟化と高齢化に伴う傷病構造の変化により医療・介護サービス提供体制のパラダイムシフトが進行している.猪飼1)は「病院の世紀」の終焉を示唆するものとして,治療医学に対する社会的期待の減退,QOL(Quality of Life;生活の質)概念の浸透を挙げている1,2).高齢社会を迎えるなかで,治療医学を主体とした医療供給システムがうまく機能しなくなりつつあり,これは多くの医療者にとっての実感であると思われる.すなわち,「治療医学的な観点からやるべきことは全てやったけど,本当に患者さんのためになったのだろうか」という倫理的葛藤である.こうした環境変化は「cureからcareへ」「治療から療養へ」と表現され,サービス提供体制そのものの構造変化を要求している.また,アメリカでは近年スローメディシンという概念として,パラダイム変換を求める声が大きくなっている3).しかしながら,医療現場は相変わらず「cure」を中心としたサービスの在り方に拘泥し,変化を拒んでいるように見える.
高齢社会の進展に伴い「看護の時代が来る」と言われて久しい.しかしながら,病院を中心とした医療提供体制の中で,看護はその本来の役割を十分に発揮できていないのではないだろうか.本稿で説明するように高齢化の進行は地域そのものを「病棟化」するよう要求し,そしてそこで質の高い療養生活,具体的には看護診断・看護計画に基づくサービスを必要とする.それは予防的なものであり,看護・介護の総合的なサービス,すなわち看護師と看護補助者(介護職)の協働を要求する*.
厚生労働省は地域包括ケアの実現を今後10年間のもっとも重要な政策課題として位置づけていると考えられる.その実現のためには医療ニーズ・介護ニーズの高い高齢者が,できうる限り在宅で生活することを支えるためのサービス提供体制の実現である.しかもそれはQOLが保障されたものでなければならない.中核となるのは看護師と介護士の協働による質の高い在宅サービスの実現である.とりわけ予防的な視点をもった看護管理が重要となる.本稿では筆者のこうした問題意識をもとに,先進的な小規模多機能居宅介護サービスを行っているびんご倶楽部高須(広島県尾道市)などを参照しながら記述してみたい.
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