連載 リレーエッセイ 医療の現場から
『風立ちぬ』とサナトリウム
福永 肇
1
1藤田保健衛生大学 医療科学部
pp.911
発行日 2013年11月1日
Published Date 2013/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541102665
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初夏,町を歩いていて突然フッと何かが気になった.何だったのだろうと振り返り,辺りをゆっくりと点検した.そこには「風立ちぬ」という大きな文字があった.宮崎駿監督の新作映画の広告看板だった.小説『風立ちぬ』を20回以上は読んで来た愛読者としては大事件である.
映画は,零戦設計者堀越二郎の前半生に,3つの小説の一部が移植された不思議な構成であった.ヒロインのサナトリウム入院までは堀辰夫の『風立ちぬ』,入院中はトーマス・マンの『魔の山』,サナトリウムを抜け出して夫に会いに列車に乗る場面は堀辰雄の『菜穂子』である.映画「風立ちぬ」のヒロインの名前が小説『風立ちぬ』の「節子」ではなく,『菜穂子』の主人公「菜穂子」であることが一層の混乱を生じさせる.映画で2人の婚礼仲人をする「黒川」は,小説では菜穂子の夫の名字だ.
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