コーヒーブレイク
風立ちぬ
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.22
発行日 2003年1月15日
Published Date 2003/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101153
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「風立ちぬ いざ生きめやも」というフレーズは,詩人ポールバレリイ(仏)の詩集海辺の墓地を堀辰雄が訳したもので,彼はこの風立ちぬを題名とした私小説を1938年に発表した.当時からこの言葉は私の琴線に触れるものがあり,今に至るまで時々唇にのぼる.
誰が風を見たでせう 私もあなたも見やしないという歌の通り風は元来目に見えるものでないが,常に私達の周囲で確かな存在を示している.この小説は死の近づいた重症の婚約者につき添って山岳地帯の療養所へ行き,そこでの閉ざされた生活のなかの短い一生の間をお互いにどれだけ幸福にさせ合えるかを書いたものである.この女主人公の死を迎えてから1年後に書いた彼女への鎮魂歌を合わせて完成し,むしろ閉塞された環境のなかで幸せを求める道筋を語っている.
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