連載 リレーエッセイ 医療の現場から
クライアントという鏡
広野 優子
1
1ER・テレフォン・クリニック
pp.275
発行日 2009年3月1日
Published Date 2009/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101418
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ER・テレフォン・クリニックは小児科開業医の診療時間外を電話相談でフォローしています.お世話になった小児科の先生の後押しもあり,6年前に開設しました.電話での医療相談を立ち上げたのは20年前ですが,開業医に電話相談の導入を提案するのは初めてでした.最初の顧客は,ご自身で時間外の電話を受けていた先生.開設1年後には業務紹介も兼ねて,東日本外来小児科学研究会で成果を発表しましたが,「医者でもないのに何で『クリニック』なのか」「看護師じゃないのに医療機関の電話相談ができるのか」という声が聞こえる一方,当日朝一番の新幹線で大阪から聴きに来られた先生もいて,反応は様々でした.
医療者は,ともすれば一般人の問題を専門家が解決するのが電話相談だと考えますが,これは診療現場というゴルフ場で医療者というゴルファーが一般人というボールを,いかに巧みにホールアウト(治癒)させるかが医療の日常だからでしょう.しかし,医療も生活の一部ですから,医療者の足場はむしろ生活現場にあるはずです.電話相談とは,この生活現場というゴルフ場でゴルファーである一般人が人生というボールをいかにうまく打てるかサポートするキャディなのです.ボールをうまく打てるかどうかは基本的にゴルファーの腕にかかっていますが,石川遼君じゃなくてもゴルフを楽しめるのは,様々なアクシデントを一緒に乗り越えてくれるキャディという存在があってこそ.優れたキャディがゴルファーの技術や癖を熟知し,最後までその腕を信じているように,一般人の生活感覚や価値観を把握したうえで彼らが最善の結果をつかむのを静かに見守っている,それが電話相談でもあります.
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